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皆さんこんにちは!
今年最後の水曜記事を映画考察で締めることにした伊達あずさです。
そんな今年最後に紹介する映画は・・・
「インビジブル・ゲスト 悪魔の証明(Contratiempo)」です。
いつもの様に作品情報から。
インビジブル・ゲスト 悪魔の証明
原題:Contratiempo
ジャンル:ミステリー
製作国:スペイン
公開年:2016年
監督:オリオル・パウロ
概要:欧州の最優秀起業家に選ばれるほどの青年実業界である主人公のドリアは元愛人のローラ・ビダルの殺人容疑で裁判の真っ最中。しかし、裁判はドリアの優秀な弁護士の尽力の甲斐あって、ドリアにとって優位に進んでいたはずだった。そんな中、ドリアが最も頼りにしているレイバ弁護士からのつてで新たにドリアの証言の準備役として雇われたグッドマンがドリアの元を訪れる。彼女によれば、現状の形勢を逆転させてしまうかもしれない新たな証人が検察側に用意されてしまったとのこと。グッドマンはこの新しい証人の証言に対抗する説得力のある抗弁をするため、事件の全貌をより詳細に詰めていく必要があるとドリアに詰め寄る。ドリアは自身の無実を勝ち取るため、グッドマンにより詳しい事件の内容を話し始める…
主人公であるドリアは密室殺人事件に巻き込まれた被害者で、証言の準備役として雇われたグッドマンはその密室殺人の謎を解き明かし、ドリアの無実を勝ち取るための完璧な抗弁を考えるといった雰囲気の映画みたいですね。
しかし、密室殺人というシチュエーションなんて、火サス的なドラマなどでも良く使われている擦られまくったシチュエーションですけど、こんなありふれたシチュエーションから今更どんなミステリーを絞り出すつもりなのでしょうか・・・
と、微妙に期待感が薄かった「インビジブル・ゲスト 悪魔の証明」に対するおすすめ度は・・・
おすすめ度(5段階):★★★★
え!まさかそっちの方向にミステリーしちゃいました!?
トリックが云々とか、先が読める読めないとか以前に、面白い手を使った脚本だな~と物凄く関心してしまいました。
ミステリー映画を最初から疑ってかかる人も、疑わずに見る人もどちらもそれぞれ別の楽しみ方ができるのではないでしょうか。
今年最後の映画が良作で良かったな~と胸をなでおろしています。
まあ、良作であればあるほど、考察の必要性は薄れていき、自分記事の存在価値の証明が難しくなっていくわけなのですが・・・
ここからはネタバレを含みますので、これから観る予定がある人は「インビジブル・ゲスト 悪魔の証明」を見終えてからにしてくださいね!
<以下ネタバレを含みます>
登場人物
主人公:ドリア
証言の準備役:グッドマン
ドリアの不倫相手:ローラ・ビダル
ドリアのメイン弁護士:レイバ
最初の被害者:ダニエル・ガリート
ダニエルの父:トマス
考察・感想(ネタバレ含む)
この作品は一見するとドリアが巻き込まれてしまった密室殺人の謎解き映画っぽく見えるのですが、実は密室殺人の真相自体はミステリーでもなんでもなかったんですよね。
簡単にまとめると、「ドリアの元を訪れたグッドマンは偽物で、全ては自分の息子を殺したドリアから事件の真相を聞き出すために仕掛けられた罠だった」というお話です。
映画自体はドリアの証言に基づいた再現ドラマの繰り返しで進むので、ドリアが嘘の証言をすると再現ドラマも矛盾に満ちたものとなります。
なので、細かいことが気になる人ほど、ドリアの嘘証言に振り回されてしまい、真のトリックから注意を逸らされてしまうかもしれませんね?
そんな感じで、見る人の心理効果なんかもよく考えられた脚本なのですが、ちょっとだけ良く分からないところもあったりします。
折角ですから、そんな私がちょっと良く分からなかったところに焦点を当てて考察してみましょう。
ドリアがダニエルとの事故を隠ぺいした理由
ドリアの証言によると、ドリアとダニエルが起こした事故は鹿の飛び出しによるもののようです。
実際の事故シーンを見てみると、ドリアとダニエルの間に確かに鹿が高速で横切っているように見えます。
そんな突然の鹿を回避するべく急ハンドルを切ったことで、ドリアの車はスピン。ダニエルの車はどこかに衝突してしまったみたいです。
でも、ドリアの車とダニエルの車が直接接触した様子はないんですよね。つまり、鹿に驚いた2人の車がそれぞれ自損事故を引き起こしたように見えます。
ってことは、別にダニエルが死んでいたとしてもドリアは罪に問われないと思うんですが・・・どうして、こんな大それた隠蔽工作(あまつさえ殺人まで)を行ったのでしょうか。
話の最後まで、事故シーンに関する訂正はなされなかったので、事故に関する証言は真実だったと考えましょう。
実際、ドリアのせいでダニエルが死亡したのであれば、ドリアの車にも相当な被害が出ていないとおかしいわけですが、偶然通りかかったトマスが車を見た際、特に不信を抱いていなかった点からも、直接ぶつかったりはしていないのでしょう。
となると・・・一体なぜそこまでドリアは躍起になって事故を隠蔽しようとしたのでしょうか。
唯一考えられることは、妻に不倫の事実がバレてしまうことです。
事故となれば、当然、家族にもその知らせが行くでしょう。ローラと一緒にいたということ自体も怪しいですが、何よりドリアはパリに出張中だったはずなのです。それが突如こんなところで事故を起こしていたとなれば・・・確かに大変なことです。
でも・・・不倫がバレたくないからといって、普通人まで殺しますかね・・・凄い悪人ですねドリアって・・・
まあ、性急に重大な選択を迫られると、冷静な判断が出来なくなってしまうものなのかもしれませんね。
ただの一般人であるダニエルの母が何故グッドマンを演じられたのか
作中ではダニエルの両親は演劇仲間で、特に母は大女優という伏線がさり気なく張られていましたが、大女優だったらそんな専門職の人のまねができて当たり前なのかと言われたらそんなわけはありません。
だってそれなら、大女優だから外科手術もお手の物ってことになってしまいますからね!
しかし、グッドマンに成りすましていたダニエルの母は、ドリアが裏で手をまわして破棄させたはずの警察の情報やローラに連絡した際の監視カメラの情報など一般人では知りえないことまで知っていました。
普通に考えれば大女優だから・・・なんていう類のものではありませんが何故!?
恐らく、ローラがダニエルの両親に自分達の罪を打ち明けた際にその辺の情報も全て聞き出していたのでしょうね。
ローラとの回想シーン内でも、確かにドリアは警察が自分の所にやってきた話をローラにしていましたし、ドリアがローラに連絡をしてきた際も港にいると自分の場所をローラに伝えていました。
きっと、ドリアが仮釈放されるまでの間にドリアが電話しそうな港を片っ端から調べて鎌をかけたのでしょうね。
最初から全ての真相をローラから聞かされているわけですから、ドリアがどんな嘘を付こうとも、見抜くことは容易いでしょうし、最初から息子の死体がある場所を聞き出すために、ダニエルの事故に関してローラの単独犯シナリオを用意していたわけですから、その辺で技術的な面はカバーできたのかもしれませんね。
ただ、流石の大女優も実はダニエルが生きたまま沈められたという真実は予想外だったようで、激高しちゃってましたね。
とはいえ、その後の機転で、「と、言った風に検察官が挑発してきても耐えろ」的な流れにして誤魔化したのはさすが大女優!といったところなのでしょう。
実はダニエルは事故で死んでなかったなんて言う必要あった?
グッドマン(?)の提案で、ダニエルの事故に関してはローラ単独だったという想定で法廷を戦い抜くことにしました。しかし、ダニエルの遺体が上がらないことにはローラとトマスを結びつけることができないため、ダニエルの遺体を警察に発見させる必要がありました。
さらに、ダニエルの遺体の傍からローラの遺留品を発見させるために、グッドマンはドリアからダニエルの遺体の位置を聞く必要があるように装いました。
ドリアはそれをすっかり信用してグッドマン(?)にダニエルの遺体の位置を教えてしまったわけですが・・・その際、ダニエルが実は生きていたというのを知っていたなんて告白する必要あったのかなぁ・・・
確かに、その時はグッドマン(?)をすっかり信用していたから全ての事実を話したと言ってしまえばそれまでですが、実際、ホテルで密室の部屋に閉じ込められた際、絶対に見ていないはずのトマスを見たと言ってみたり、その日、制服を着ていないはずのダニエルの母親を逮捕された際に見たと言ってみたり、相変わらず保身のための嘘を付きまくってるんですよね。
実際、ダニエルとの事故がローラの単独であったという形で抗弁した場合、ダニエルの検視結果が溺死であるとなった場合であっても、ドリアには全く関係のない話なわけです。最悪、グッドマンやレイバを欺くことになるかもしれないけど、まさか生きてたなんて知らなかったといえば良かっただけですよね?
自分が真実を隠していたことによって法廷で不利な状況になるのであれば、信用したグッドマン(?)に真実を言うでしょうけど、仲間内からすら責められたくない完全保身のドリアが何故そこだけ不必要な真実を語ったのか凄まじく違和感があります。気の迷い??
検察側の新証人が車の男だったと偽る必要あった?
グッドマン(?)はローラが知りえる範囲の真相は全て知っていたはずです。しかし、ダニエルの遺体を処理したのがドリアであったため、どうしてもその肝心な情報だけはドリアから引き出す必要があったわけです。
そこで、無罪を勝ち取るためにはダニエルの遺体を知る必要があるとドリアに持ち掛けるために、ローラ単独事故シナリオを用意したのだと思います。
でも、だとするならばグッドマン(?)にとって、自分が提案するローラ単独事故案を覆してしまう車の男が証人であってはまずいわけです。
にも拘らず、何で敢えて証人が車の男だとドリアに告げた上で、ローラ単独事故案を提案する必要があったのでしょうか。
確かにドリアから冷静な判断力を奪うためと本物のグッドマンがやってくるまでのタイムリミットの関係上、敢えて急がねばならないという状況を作るために、検察が新証人を出したという嘘は必要だったかもしれないのですが、結局、最終的に証人が車の男ではなかったとは言いつつも、じゃあ、本当は誰なのよという話にはなってないんですよね。
だったら、新証人は居るけど最後までわからない体で話を進めるだけで良かったんじゃないの?
何故グッドマン(?)は、自分が持っていこうとしている流れに逆らうような嘘をわざわざ付いたのでしょうね・・・
ひょっとしたら、保険として別の作戦もあったのかもしれませんが、車の男が新証人だと告げた時には、もう大分ローラの単独犯説で押せそうな手ごたえは掴めていたはずですし、何もわざわざあのタイミングで車の男が証人だなんて言うメリットなんてなさそうなんですけどね。
写真の合成は誰の罠だったの?
ドリア逮捕時の新聞記事の写真にダニエルの母親が写っていたのは、ローラ単独事故案をドリアを導くための罠だったのでしょう。
でも、それを合成だとグッドマン(?)自ら言うのはちょっと無茶苦茶すぎです。自分でここに母親が写ってるから、きっとトマスが犯人でしょうっていう話をドリアに持ち掛けたのに、実はこれは合成写真よとか言われてもね・・・一体そんな罠を誰が張るというの!?新聞記者!?
普通に考えればどう考えてもグッドマン(?)が怪しいのですが、せっかく助かると思ったのに、またどん底に突き落とされてしまったドリアは、思考停止し、目の前のグッドマン(?)に助けを求める他なかったのかもしれません。
一方のグッドマン(?)も、まさか、ダニエルが本当は死んでなかったのを知ってて湖に沈めたとは思ってもいなかったでしょうから、気が動転して、予定外にドリアを追い詰めたくなってしまったのかもしれませんね。
でも、確かに合理的ではないのかもしれませんが、人間心理というのはそもそも矛盾することがあるものですし、この矛盾も、グッドマンが偽物だという最後のオチに繋がる伏線だったのかもしれません。
とまあこんな感じで、物理的な矛盾はないものの、心理的な矛盾は結構ある気がします。でも、心理的な矛盾というのは、物理的な矛盾とは違って、確実にそんな矛盾は起こりえない!と証明することは不可能ですし、その矛盾が敢えての伏線にも見えるので、凄くクレバーな手法だな~と思うわけです!
地味ながらにも、なかなか骨のあるミステリーで今年を締めくくることができて本当に良かったです!
以上です!
Studio POPPOのプログラム兼システム担当です。
ウォーキング・デッド大好き!ダリルかっこいいよっ!主食はキノコです。
こんばんは(*・ω・)
いつも矛盾点を白日の元に晒す伊達さんの鋭いツッコミが、つくり手の仕込んだトリックに妙な説得感を与えるアシストに感じられましたΣ⊙▃⊙川
しかもそれがスペイン映画っていう所がまた驚きですね!
ゆるいラテンのイメージから、まさかこんなに人間心理というとらえどころのないものの質感を感じさせる計算された作品を作り出すとは……おそるべしスペイン。。。
さすがはガウディやピカソを生んだ国と言うべきか……
伊達さんのレビューで星4なんて珍しいし、お正月に観てみたいなと思いました(´ω`)
いつもコメントありがとうございます!
>伊達さんのレビューで星4なんて珍しい
う、そうですか・・・自分ではあまり厳しくしているつもりはないのですが、何か記事にしようと思って見返すと、評価が下がりがちなんですよね・・・
映画館などでワンチャンス限りという条件で観ると、ひょっとして全体的にもう少し評価が上がるのかもしれません。
でもって、全体的に地味で、最後のオチを重要視する人には物足りなさがあるかもしれませんが、私としては結構面白い映画でした!
「作中の描写が矛盾してて当たり前!」みたいな作りの映画は記憶探偵と鍵のかかった少女以来ですが、あちらは超能力が登場する何でもありの世界ですからね。この作品とはちょっと趣が違います。
是非、お正月休みのお伴にしてみてください!