トランストリップを観た感想と評価:映画考察

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栁澤蘭丸です。こんにちは。
今回は、ある人は「意味が分からない駄作」と言い、ある人は「とても怖い名作」と言う、評価がまっぷたつに分かれる映画
トランストリップ(Magic Magic)」を観てみました。

というわけで作品情報から。

トランストリップ
原題: Magic Magic
ジャンル:サイコサスペンス
製作国:チリ、アメリカ
公開年:2013年
監督:セバスチャン・シルバ

概要:初めての海外旅行でいとこのサラを訪ねる主人公のアリシア。バカンスを楽しむはずが、繊細なアリシアにとって神経をすり減らすような出来事ばかり起こってしまい、最後にはとうとう……。

という感じです。ジャンルはサイコサスペンスですが、殺人事件が起こる推理モノではありません。サスペンスの定義は「ある状況に対して不安や緊張を抱いた不安定な心理、またそのような心理状態が続く様を描いた作品」です。この作品は本来の定義通りの「不安な気持ち」に重点を置いたものと思われます。

実はこれ、いわくつきの作品で、”観るものを不安定にさせる”という理由で、劇場公開を取りやめ急遽DVD・VODリリースのみになったという作品です。
どんな怖いことが起こるんだろう、と期待を込めて観たこの「トランストリップ」…

おすすめ度(5段階):★★

限りなく★1に近い★2です。
観る人を選ぶ映画です。不穏な雰囲気や、主人公の繊細な心がよく分からない、という人は間違いなく「駄作」の烙印を押すでしょう。
そんな「トランストリップ」の中身を考察してみたいと思います。
ここからはネタバレを含みますので、これから見る予定がある人は「トランストリップ」を見終えてからにしてください。ただしR指定です。

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<以下ネタバレを含みます>

登場人物

主人公:アリシア
アリシアの従姉妹:サラ
サラの彼氏:アグスティン
アグスティンの友達:ブリンク
アグスティンの姉:バルバラ

考察・感想(ネタバレ含む)

話は主人公アリシアと、アリシアをとりまくこの4人を主軸に進んでいきます。

映画は寂し気なBGMが鳴る中をチリの美しい自然(この先の舞台になる場所です)が映るところから始まります。
そして、その自然の映像から主人公たちが登場するシーンに切り替わる一瞬、暗転して真っ黒の画面に「MAGIC MAGIC」(この映画の原題)という文字が映ります。
普通に見ていると、「一瞬文字が映ったかな?」程度にしか分かりません。サブリミナル効果を狙ってるんでしょうか?
MAGIC…魔法、もしくは手品。それがこの先重要になるということを暗示しているのでしょうか。

結論から言うとこの映画は、『アリシアにとって嫌な出来事が起こり続け、アリシアの心は壊れてしまいました。さらに命も落としてしまいました。』という物語です。
特に衝撃的などんでん返し等が待っているわけではないので、ただただ観客を不安な気持ちにさせることが目的なのでしょう。
結末にあまり意味がない代わりに、映画の画面に色んな仕掛けがしてあります。冒頭の「MAGIC MAGIC」もそうですが、突然幾何学模様が画面にパッと映ったり、ソファの柄が歪んでいったり(ストーリーには関係なく、映画を観ている人だけが見せられている)、観客はあまり気が休まる時がありません。変な催眠術みたいな仕掛けがされているのでは…、という気持ちにさせる目的だと思います。

映画が始まると、この映画に登場する人物たちが、ものすごくアリシアと合わないということが分かってきます。

主人公アリシア

映画をみるに、アリシアはアメリカ人ですが、とても繊細で気弱で、日本人的な感じがします。決して性格が悪いわけでもなく、繊細と言っても私から見ると普通の女の子の範疇に見えます。
そんなアリシア、内気だし人見知りもするけど、親の「休暇が必要」という勧め(多分半ば強制)もあり、従姉妹のサラが現在住んでいるチリへ来ることになります。
チリでは、サラの彼氏関係の人々(アリシアのみ初対面)に交じって、さらにサラの住んでいるサンティアゴの町からリゾート地へ移動して過ごす予定だけど「サラさえいるのならいいか」と思って、やって来たようです。「どうしても行かないとだめ?」と言っていたので乗り気ではない様子。
親から休暇が必要と言われてしまうほどなので、アリシアは最初からお疲れ気味だったんだと思います。また、サラに対して「ママが私を押し付けてごめんね」と発言していたので、普段から繊細なアリシアを親は持て余していたのかも。
リゾート地はサンティアゴから12時間も車で移動してから船で渡らないといけない場所なので、アリシアは何が起ころうと自力ではそこから逃げられないことになります。

アリシアの従姉妹サラ

サラは、アリシアにとって慣れない土地での唯一の頼りです。
リゾート地へもサラの関係者と共に行くわけですし、サラがいてくれないとアリシアは心細い。
サラは旅行前に産婦人科を受診していたようで、旅行中に産婦人科から電話がかかってきます。そして、「あなたは妊娠していますよ」と言われたらしく、急遽彼氏のアグスティンとひそひそ相談をし、(おそらく)中絶手術を受けるため、途中離脱します。アリシアは知らない人の中に残されてしまいます。
「次の日には合流するから我慢して」とサラは言うのですが、結局次の日には来れず、アリシアは丸一日以上サラのいない生活をする羽目に…。
サラのいない隙に、アリシアが神経をすり減らすいろんな嫌なことが起こってしまうので、サラは保護者ではないとはいえ、無責任な印象です。

サラの彼氏アグスティン

アグスティンはこの中では唯一(割と)マトモな人です。
でも、惨事を引き起こすきっかけになったのは、アグスティンが趣味にしている「催眠術」でした。
神経がすり減っていたアリシアは、アグスティンが余興的にかけてみた催眠術に本当にかかってしまい、ここから精神的な衰弱が加速して、奇行に走ってしまいます。
マトモと言ってもまさに「割と」なだけです。中絶手術を終えて合流したサラと懲りずにセックスしようとし、「痛いから無理」と言われますが辞めるわけではなくアナルセックスに切り替えるという、常識外れのこともします。
中絶手術を終えたばかりのサラとヤろうとする時点でどうかと思うし、普通じゃないセックスをしたサラの異変にアリシアが気づいてしまう場面があり、アリシアはこれに関しても「この人たちはどうかしてる」感を強めたと思われます。

アグスティンの姉バルバラ

この人はとにかく不機嫌です。
チリへ来るのがもうすでに長旅だったので、アリシアをお風呂に入れてあげていいか?というサラの申し出に「必要?」と露骨に嫌な顔をし、アリシアに分からない言葉(スペイン語)で、「面倒な子ね」と文句を言ったり、
リゾート地へ向かう車内で、「音楽には詳しくない」と辞退するアリシアに強引に「何でもいいから音楽のCDを選んでかけてみて」と選ばせ、実際にかけると「悪いけどゾッとするわ。」とCDをすぐ取り出そうとしたり、
「ネイティブアメリカンの民族は白人のせいでめちゃくちゃになった」と白人であるアリシアに言うなど、アリシアに対してとても冷たいです。
(バルバラは顔つきからしていかにもネイティブアメリカンの血を引いている感じです。)
また、アリシアがリゾート地の自分の部屋で寝ようとしたところ、外から鳥の鳴き声がずっとしているので眠れず、ベッドを窓から離そうと動かすのですが、
隣の部屋のバルバラはその動かす音を聞いて「ベッド動かすな、うるさい」と言わんばかりに部屋で再生していたBGMの音量を上げます。
他人の出す音にはとても厳しいバルバラ。
ですが神経質だけど無神経でもあります。人が読書をしていようと、バリバリ大きな音を立ててスナック菓子を食べて気を散らすことは平気です。
音楽の音量を上げた時も、他人がその音楽をうるさいと思うかもしれない…とは思わなかったようですし。
また、道中で、捨てられていた病気の子犬を「助けよう」と言い出したくせに、子犬がキュンキュンと鳴き続けると「うるさい」と言って再び捨てるという残酷な行為もします。
このように自分勝手なバルバラと過ごすことによって、アリシアは神経をすり減らします。

アグスティンの友達ブリンク

この人は(多分英語が話せるという理由で)アリシアが喜ぶだろうと同行することになった、アグスティンの高校の友達です。サラによると外交官の息子。
この人は終始下ネタを言います。みんなは割とウケて笑いますが、アリシアは苦笑いするしかない。
彼はアリシアに好意を持ってちょっかいをかけます。アリシア的にはノーサンキュー。しつこい変態とずっと一緒のアリシアは神経をすり減らします。
そして、英語が話せるため呼ばれたと思われるのに、スペイン語でばかり話すのです。
彼らの日常会話はスペイン語だからそれが身に染み込んでいて自然に出てしまうようなのですが、サラ離脱からサラ合流までの間、「英語で言って」と注意してくれる人がいません。
サラはちょくちょく会話に入れない、みんなが何を言ってるか分からない、という事態に遭遇します。
アグレッシヴな性格の人なら「今なんて言ってるの?」などと言えるのでしょうが、アリシアは繊細で大人しい子なのでそんなことはできません。
また、子犬を捨てる時、彼はバルバラに賛同して「このくそ犬!」などと言っていたし、リゾート地では「撃たないで」と言うアリシアを無視してインコを狙って銃で撃って死なせたので、アリシアはこの人のことも残酷だと感じます。

この4人が、精神を休めに来たはずのアリシアの精神的HPをグイグイ削っていくのです。

この4人の行いの他にも、「可愛い~。よしよし」と、なでなでとしていた牧羊犬がマウントしてきたり(犬が人に抱き付いて腰を振る行為。別に性的な意味はなくて、『オレのほうがお前より上』と示すためにやっていると言われている…なのでメス犬でもする。犬を飼ってる人なら常識)
それを「アリシアは犬に性的に見られた」と思ったブリンクに下品に笑われたり、
サラ合流後も、崖の上から海にぽーんと跳び込む遊びに誘われて、みんなから跳べ!跳べ!と急かされ、カウントダウンされるも、どうしても怖くて跳び込めなくて落ち込んだり。

そんな弱ったアリシアにトドメをさしたのがアグスティンが戯れでかけた「催眠術」です。(これがMAGICその1でしょうか)
みんなは本当にかかるとは思っていなかったのですが、疲れ果てていたアリシアには本当にかかってしまいます。ですが、そうとは知らないブリンクは、「娼婦のように踊れ」だの、「アグスティンのをしゃぶれ」だの、変態に相応しいリクエストをアリシアにします。
かかったフリじゃないので、その通りにしてしまうアリシア。最後に変態は「火に顔を突っ込め!」と、ひどいリクエストをします。かかったフリだからできないだろうとたかをくくった感じです。
でもアリシアは催眠(トランス)状態なので、暖炉に突っ込もうとし、燃える薪を素手で触ってしまい、そこで大火傷をしてやっと目が覚めます。

しかし時すでに遅しで、アリシアの心はもうボロボロになってしまいました。
夜中、バルバラに渡された睡眠薬をたくさん飲んでしまったり、寝ているブリンクに銃を向けてみたり(撃たないけど)、「私跳べる」と言って、昼間には跳び込めなかった海に跳び込んだり、アリシアの奇行が始まります。

アリシアやばいんじゃないか?と思った一行は、医者にアリシアを見せたいのですがあいにくここはド田舎で医者がいない…。それに夜中です。
仕方がないので、リゾート地の管理人をしているネイティブアメリカンの夫婦の家がある「マプチェ族」の集落へと車で向かいます。

車の中では、あの捨てた子犬の鳴き声が聞こえる…。「音楽をかけて」と泣くアリシア。再びあの「ゾッとする」音楽がかけられます。カオスティックで恐ろしい状況が演出されています。

そして着いた「マプチェ族」の集落で、お医者さんではなく、呪術師に診せられます。
今でも文明の及んでいない場所では魔術師や呪術師がお医者さんの役割も果たしていたりします。今回はこれが最悪の事態を招きます。
おかしな儀式が始まり、羊が生贄にささげられ、アリシアによくわからない変なお茶が飲まされます。(これがMAGICその2?)
呪術師が歌って、歩き回っているうちにアリシアは息をしなくなってしまいます。
呪術師によると、アリシアの魂は浄化されて戻ってくるので大丈夫とのことです。
つまり一度は死ぬのが当然と思って儀式をしていたことになります。
そして生き返ったら措置は完了というのが、呪術師の考え。「鼻の下をこすれば生き返る」と言っています。
サラ達は呪術師の考えを詳しく聞かずに、させるがまま儀式をさせてしまいましたが、現代人にはにわかには信じられない措置だったのです。でも、もうアリシアは息をしていないのだから、何もかも手遅れです。

ラストシーンは、舟でリゾートに戻る場面です。サラが「お願い、死なないで」と言いながら一生懸命アリシアの鼻の下をこする中、舟のエンジン音が響きわたり続けて映画は終わります。

ただただアリシアがかわいそうなだけで終わってしまって、ストーリーは大変遺憾です。
なので、端々にちりばめられている不気味な演出を楽しむことに注力すべきかと思います。
またはアリシアがあられもない姿になるシーンがあるのでそれを楽しむくらいしかないかな、と思います。

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栁澤 蘭丸
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